昔、投稿天国でかな〜りマニアな競馬コラムを書いて、 かな〜りマニアな人のみにウケていた、『競馬のけ』の作者、“みやっち”。 そのコラムを通じて知り合うことになり、毎晩のように競馬談義に花を咲かせる お好み焼き屋、“ぐっさん”。 二人の「福井の隠れ競馬ファンと知り合って、競馬のロマンについて語り合いたい」という、 たったそれだけの想いで始まったこのサイト「競馬鹿人生」。 今夜も ぐっさんの店で競馬談義が始まった!
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福井の競馬ファンに捧ぐ
この国の競馬を陰で支えてきた、アングロアラブ種。 いつしか、彼らの活躍の場は失われ、血を紡ぐ事も許されず、ただ滅びの時を待つのみとなりました。 しかし今日も、彼らは競馬場で砂を蹴散らします。 それでもアラブは生きている!
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福山競馬に訪れるのは恐らく7〜8年ぶりのこととなります。
確か以前に訪れた時は正月開催で、携帯ストラップをプレゼントされたのを覚えています(未だに家にあります)
福井からは普通電車を乗り継いで7時間。
競馬場には福山駅から無料バスが出ています。駅から約10分で到着しました。割合派手な入場門をくぐり場内に入ります。
場内に入ったらまず向かったのが「警備本部」。ここで写真撮影の許可証をもらいます。
福山競馬では写真撮影をする際は許可証がないと出来ません。
パドックはまあ小ぢんまりとしたもの。ちなみに馬名や馬体重の掲示板はありません。場内モニターで確認することになっています。 パドックのそばには使用されなくなった枠連オッズの掲示板がそのまま放置されています。 |
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スタンドは改修を重ねてきたようで、なんとなく「継ぎ接ぎ」感があります。収容人員はそんなに多くはないようです。 |
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ゴール板は馬蹄をあしらったもの。ゴールの位置がスタンドの一番端の方なので、ゴール前の接戦は必然的にモニターかビジョンで確認するしかありません。 |
コースは直線が200m。フルゲートは10頭です。コース形態が長方形なので、その昔はカーブがきつく、「弁当箱みたいなコース」と揶揄されました。実は、福山が最後までアラブ専門だったのがこのコースが一因と言われ、あまりのカーブのきつさに、サラブレッドのスピードでは曲がりきれず事故が多発する恐れがあったからとのこと。しかしサラブレッド導入にあたり、カーブを「スパイラルカーブ」(コーナー進入時にスピードを落とさずにスムーズに進むことが出来ると言われています)に改修するとのことです。やはり他の地方競馬場と同じく、馬との距離が近く感じられます。迫力満点! |
競馬場に着いたのはお昼過ぎだったので、早速お昼ごはんに。
競馬場2階で売っている「ラーメン」! 濃い目の醤油ラーメン。いわゆる尾道ラーメンですね。本格的なご当地ラーメンが味わえるのはここか荒尾競馬ぐらいのもんです。 |
競馬場には食堂がいくつかありますが、中でも人気なのが「山本商店」さんのやきそば(300円)! やはり広島名物おたふくソースを使用したもの。焼きたて熱々で凄く美味しい! |
さて、この日は前半6レースがサラブレッド、後半5レースがアラブというレース編成。
アラブのレースでの出走馬の血統を見ると、
世が世なら繁殖牝馬としても種牡馬としても重宝がられただろうに……、
と思わせる血統の馬が何頭かいました。
しかしもはやそれは叶わぬ夢……。
2006年のアングロアラブ生産頭数、わずか62頭。
もはや希望も何もない、そこに待つのは「静かなる死」なのでしょうか……。
この日は全国からアラブ競馬を愛する人たちが来ていました。
九州から来られた方は、こうポツリと漏らしていました。
「何でみんなアラブの素晴らしさがわからんのやろうとねえ……」
安くて丈夫、3連闘でもドンと来い、10歳超えてもバリバリ現役、
馬主も厩舎も生産者も大助かり。そんな馬をなぜ駆逐するのか。
「国際化を目指す日本には、2つの競馬はいらないから」
「アラブはスピードに劣るからレースが面白くないから」
「アラブはかつて血統詐称(俗に言うテンプラ)があったから、いかがわしいものは排除しないといけないから」
本当にこれでよかったのでしょうか?
少なくとも地方競馬にとっては無くてはならない馬種だったはず。
それがサラブレッドが余っているからといってアラブを駆逐する理由になるのか?
今の地方競馬は自分達の手で自分達の首を絞めているとしか思えないのですが……。
そんな感慨を持ちつつ、お目当てのレースを迎えました。
これがひょっとすると最後のアラブの全国交流レースになるかもしれない
「全日本ローゼンホーマ記念」です。
レースの冠になっている「ローゼンホーマ」についてご説明を。
父タイムライン 母ヒダカローゼン 母の父エルシド 通算成績41戦34勝2着6回3着1回 主な重賞勝ちに、楠賞全日本アラブ優駿、全日本アラブ大賞典など。 福山史上最強の名馬とされ、全国交流級のレースでも強さを遺憾なく発揮しました。 6歳時の秋までに、デビュー以来40連続連対を達成。これは岩手のトウケイニセイが41連続連対を達成するまでの間、日本における最多連続連対記録でありました。 ローゼンホーマの凄いところは、その40連対は全国の強豪と戦いつつのものであり、決して内弁慶であったわけではないということ、そしてきっちりと交流重賞を勝ちきったということです。 |
本当なら銅像が建ってもおかしくないほどの名馬です。
その代わりなのでしょうか、1990年にローゼンホーマ記念が創設され、今年で18回目。
今年は初めて全国交流レースになりました。
とはいっても賞金は1着で125万円……。
中央競馬の3歳未勝利戦の3着賞金にも満たない額です。
全国交流なら、もう少し額を増やして欲しかったですが……。
「これまで福山競馬を支えてきたアラブ競走馬に感謝の意を込めて、
全国のアラブ系4歳以上による交流競走
『福山グランプリ全日本ローゼンホーマ記念』
を予定しています。」
これは今回福山競馬がローゼンホーマ記念を行なうに当たっての説明。
まるでこれが最後の全国交流レースになると言わんばかりの書き方ですね。
だからこそ、もうちょっと賞金は奮発して欲しかった……。
ということで、出走各馬を血統と短評と共にご紹介します。
1枠1番 ユノフォーティーン(福山) 牡5 56kg 渡辺博文 父カヅミネオン 母レアクイーン 母の父ファストセンプウ 34戦20勝 主な重賞勝ち:全日本2歳アラブ優駿、福山桜花賞、福山マイラーズカップ。 【血統】 父カヅミネオンは名古屋で7戦全勝。主な産駒にラピッドリーラン(全日本タマツバキ記念アラブ大賞典)、クロイチョキンバコ(全日本アラブ2歳優駿)、サンデンビスタ(全日本アラブクイーンカップ)。 母レアクイーンは不出走。しかし牝系を見れば、おじにトライバルセンプー(楠賞全日本アラブ優駿)、キタサンブルー(シゲルホームラン、ダイメイゴッツの父)が、兄弟にミスターオリビエ(園田ジュニアカップ)がおり、ユノフォーティーンのいとこにはユノエージェント(福山ダービー)、メイユウオライオン(福山大賞典)がいます。いわゆる「良血」です。 母の父ファストセンプウは道営・南関東で15勝。全日本アラブ争覇を制しました。 【短評】 先行脚質、かつ内枠を引いたこと、さらにライバルのバクシンオーがいないとなってはこの馬にとっては勝ってくださいと言わんばかりの条件が整った感じ。しかし、過去幾度かポカやっちゃった経験があるだけに、2着もあるということだけは頭に入れておかないといけないかと。しかし大本命には変わりがない。
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2枠2番 モナクリュウオー(福山) 牡4 56kg 藤本三郎 父スマノヒット 母コピエ 母父ファストセンプウ 32戦9勝 主な重賞勝ち:鞆の浦賞 【血統】 父スマノヒットは兵庫で56戦25勝。園田金盃(兵庫)連覇などの活躍をしました。主な産駒にサンバコール(タマツバキ記念)、ヘイセイパウエル(名古屋杯)、フェイトスター(全日本アラブクイーンカップ)、タッカースカレー(楠賞全日本アラブ優駿)など多数。 母コピエは福山で22戦9勝。99年の銀杯を制しました。牝系は、イナリトウザイ、サクセスフレンド、ホマレショウハイ、グランドカリム、ロックハート、ホーエチャンピオンなどの重賞勝ち馬が多数輩出されています。 【短評】 いかんせん未だにB級、しかも先行争いが激化しそうなだけに厳しいか。
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3枠3番 ムサシボウダイヤ(福山) 牡5 56kg 岡田祥嗣 父ホーエイヒロボーイ 母ホウワジュピター 母の父イムラッド 44戦13勝 【血統】 父ホーエイヒロボーイは南関東で37戦18勝。サラブレッド相手の報知グランプリカップを制しました。主な産駒にスイグン(全日本タマツバキ記念アラブ大賞典2連覇)、エイランボーイ(タマツバキ記念山陽杯)、レビンマサ(全日本2歳アラブ優駿)、チョウヨームサシ(楠賞全日本アラブ優駿)など多数。 母ホウワジュピターは福山・益田で23勝。母の父イムラッドはフランスで8戦5勝し日本に輸入されました。主な産駒にニホンカイローレル(名繁殖牝馬)、ペルターブレーブ(タマツバキ記念アラブ大賞典)、ハッコーディオス(白鷺賞、新春賞)など。 【短評】 重賞では常に掲示板を外さない堅実な走り。あと一押しがあれば上位争いは可能だが、前崩れ待ちか。
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4枠4番 ヤスキノショウキ(福山) 牡6 56kg 嬉勝則 父ホーエイヒロボーイ 母センゲンクイン 母の父キタノトウザイ 65戦11勝 主な重賞勝ち:キングカップ、福山菊花賞。 【血統】 母センゲンクインは北関東で6勝。母も2代母も、2代母の産駒も全て北関東で出走しています。 母の父キタノトウザイは、「アラブの魔女」イナリトウザイの仔で、南関東で5戦全勝。主な産駒にミスターヨシゼン(全日本アラブ大賞典)など多数。産駒の通算勝利数は5000勝を超えるそうです。 【短評】 逆転があるとすればこの馬。ジリ脚っぽいですが嵌れば強力。ここで勝ってタイトルをもう一つ増やしたいところです。
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5枠5番 モナクカバキチ(名古屋) 牡8 56kg 丸野勝虎 父ホマレブルショワ 母フジミネエリカ 母の父アリラバット 95戦37勝 主な重賞勝ち:銀杯(福山)、黒百合賞(金沢)、名古屋杯。 【血統】 父ホマレブルショワは兵庫・金沢で70戦25勝。園田デビュー後金沢へ移籍。金沢では移籍後18戦全勝を達成して引退。主な産駒にホマレスターライツ(楠賞全日本アラブ優駿)、ホマレショウハイ(全日本アラブ争覇)など。 母フジミネエリカの牝系を辿れば、小岩井農場の基礎繁殖牝馬「アストニシメント」に辿り着きます。牝系だけ見れば、この馬はファイトガリバーやオフサイドトラップやブルーコンコルドと同牝系になるわけです。 母の父アリラバットはアラブ改良を目指して輸入されたフランス産のアラブ血量50%のアラブ。主な産駒にニューサラトガ(楠賞全日本アラブ優駿)、インターロッキー(兵庫大賞典、園田金盃)、ブラウンバット(西日本地区招待アラブ大賞典)など。 【短評】 名古屋ではサラブレッドと互角の勝負をしています。福山では昨年6月のタマツバキ記念に遠征しましたが、その時は惨敗。福山で重賞勝ちがあり、馬場適性はあるのでしょうが遠征下手なのでしょうか……これも3着候補。
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6枠6番 キッポータロー(笠松) 牡8 56kg 高木健 父ホーエイヒロボーイ 母トップダイドウ 母の父スマノダイドウ 71戦22勝 主な重賞勝ち:笠松オールカマー。 【血統】 母の父スマノダイドウは南関東・兵庫で21勝。大井のアラブダービーなどを制しました。アラブの大種牡馬として、今なお影響力を残しています。 本馬の半兄には、中央競馬でのタマツバキ記念を2勝したネオアイク(父キンカイチフジ)がいます。 【短評】 笠松ではB級サラブ相手に大敗続き。どう考えてもここでは苦しい。
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7枠7番グリーンジャンボ(金沢) 牡8 56kg 古性秀之 父レオグリングリン 母グリンモルゲン 母の父キタノトウザイ 81戦12勝 主な重賞勝ち:瀬戸内賞(福山)、北國アラブチャンピオン(金沢)。 【血統】 父レオグリングリンは上山で52戦31勝。東北アラブダービーなどを制しました。産駒にマリンレオ(タマツバキ記念、セイユウ記念勝ちなど40勝)、スーパーベルガーなどがいます。 母グリンモルゲンは北関東・上山で1勝。 【短評】 金沢ではサラA1級で勝ち負け。福山にいた時代に重賞勝ちがあり、馬場適性はあるものの、輸送減りと馬場への即座の対応ができるかというと疑問。3着までか。
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7枠8番 ファルコンパンチ(高知) 牡7 56kg 西川敏弘 父オタルホーマー 母エリモローゼン 母の父ローゼンタイム 94戦14勝 主な重賞勝ち:高知市長賞。 【血統】 父オタルホーマーは道営・南関東で26戦8勝。道営デビュー後南関東に移籍し、南関東アラブ3冠、更には楠賞全日本アラブ優駿を制した80年代末期の南関東アラブの名馬です。 牝系はアサンテイクヰーンというサラブレッドにたどり着き、更に牝系を辿ると、アサンテイクヰーンの16代母Banterの子孫にイソノルーブル、マヤノトップガンがいます。 母の父ローゼンタイムは兵庫で12戦8勝。園田ジュニアカップを制しました。このレースの冠「ローゼンホーマ」号の全兄になります。主な産駒に「狂気の女帝」マルシンヴィラーゴ(全日本アラブ争覇)など。 【短評】 地域レベルを考えても、ここでは荷が重過ぎる感じ。掲示板に入れば大健闘といったところでしょうか。
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8枠9番 アトムビクトリー (福山) 牡6 56kg 佐原秀泰 父ニホンカイユーノス 母ビクトリーサラエボ 母の父ビクトリートウザイ 62戦15勝 【血統】 父ニホンカイユーノスは益田・兵庫で40戦30勝。兵庫の重賞を総なめにしました。「日本一小さい競馬場」益田競馬が生んだ最強の英雄でした。 母ビクトリーサラエボは兵庫で11勝。母の父ビクトリートウザイは兵庫で24戦17勝。兵庫大賞典などを制しました。 【短評】 昨年のタマツバキ記念2着。実力はあるものの未だ重賞未勝利。差し脚に期待したいところですが果たして……
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8枠10番 フジノコウザン(福山) 牡4 56kg 楢崎功祐 父コウザンハヤヒデ 母スカイフラワー 母の父スマノヒット 24戦14勝 主な重賞勝ち:銀杯 【血統】 父コウザンハヤヒデは荒尾所属で13戦12勝。楠賞全日本アラブ優駿を逃げ切り勝ちしました。 母スカイフラワーは不出走。 【短評】 B1、A3を連勝してきましたが流石に家賃が高いか・・・ユノフォーティーンにどこまで競りかけられるか。
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出走馬それぞれの血統には、アラブがこれまで築いてきた「歴史」そのものが秘められています。
その歴史は地方競馬の歴史とイコールなのです。
アラブは、各地から強豪が現れるチャンスがありました。
それこそ北は道営競馬から南は荒尾まで。
かつて「アラブの日本ダービー」と呼ばれた楠賞全日本アラブ優駿には、
毎年のように各地の強豪馬が集まり、
開催場の園田はお祭騒ぎだったといいます。
歴代の勝ち馬の所属を見ても、兵庫はもちろん福山、南関東、荒尾、金沢、栃木……。
あらゆる地域から「オラが村のヒーロー」が出て、地元の競馬も活性化されていったのです。
その歴史が、まるで「無かったこと、存在しなかったこと」のように扱われ、
忘れ去られ、そして歴史の闇に葬り去られようとしている……。
そんな中でも、彼らはその身体にさまざまな想いを背負い、走ります。
アラブだって競走馬。サラブレッドだけが競馬ではない!
そしてレースがスタート!
あら、ユノフォーティーンが好スタート!これはやられたか……。
特に競りかけていく馬も無く、楽〜に逃げていきます。
淡々とレースが進み、勝負どころの600m標識を通過。
外からモナクカバキチとヤスキノショウキ!
しかしユノフォーティーン再加速!
最終コーナーを回ってこれはフォーティーンの圧勝ムード。
2番手争いはヤスキノショウキが前に出る!!
……も、内からモナクカバキチが差し返し!
うっそーん! 3着でしか買ってないよ……。
結果:1着 ユノフォーティーン 2着モナクカバキチ 3着ヤスキノショウキ
……その組み合わせの3連単は買ってませんorz×254
勝ったユノフォーティーン。日本競馬史の片隅に残る勝利。
口取り式では、夕日に馬体が金色に輝いていました。かっこいい……。
しかしどんなに勝ち続けても、どんなに強くても、彼らには子孫を残すことはもう叶わない夢。
でもこの日彼らが見せてくれた走りは、サラブレッドに決して負けることのない、素晴らしいものだったと確信しています。
そう遠くない将来、確実にアラブ系競走馬は競馬場から姿を消すでしょう。
その最後の一瞬まで見守るのが、
これまで日本の競馬に多大な貢献をしてきたアラブに対する
最大の礼儀なのではないでしょうか。
私は見守りたいと思います。